ダニエル書講解18 「クロス王のバビロン攻略」


 彼らが確かに安全であると確信していた場所に危険が隠されていた。クロスは武力によって成し得なかったことを、軍略によって成就しようと決心した。彼はバビロンにおける例年の祭典、つまり全市をあげての歓楽と酒宴に耽溺する祭典が間もなく始まることを知って、この機会に乗じて目的を遂行しようと決心した。そのためバビロンに侵入するためには、ユフラテ川がその城壁の下より市街を貫流しているその所から入る他は方法がなかった。彼はこの川を利用して敵の要害に肉迫する通路にしようと計画したが、そうするには市を貫流する水路を他に転じなければならなかった。彼は祭りの夕方に兵隊を3隊に分け、第1隊にはあらかじめ定めておいた時に市よりほど近い所に設けた人工の湖に川の流れを転じさせ、第2隊には川が市内に入る地点に駐屯させ、第3隊には15マイル下流、すなわち川が市外に流出する地点を守らせたのである。そして第2と第3隊には川が涸れて歩けるようになったらすぐにその水路に入り、城壁の下から通路を通って王の宮殿に迫り、そこで両隊は合流して不意に宮殿を襲い、護衛兵を殺し、王を捕えるか切り殺すように命じた。このようにして川の水が前述の湖に流れ込んだ時に、川はたちまち歩くことができるようになった。そしてその目的のために配置してあった兵卒はその水路を通ってバビロン市の中心に侵入した。
 しかしもし全市が一大事件の起きたこの夜、クロスの予想に反してこのようなはなはだしい不注意と油断の状態に陥っていなかったならば、この作戦計画は水泡に帰したことであろう。というのは、全市を通じて川の両岸には非常に高い城壁があって、しかもそれは外壁と同じ厚さであった。またこれらの城壁には堅固な銅の門があったので、それが閉鎖され、守衛されていたのなら、川を横切る25街区へのどれにも川床をつたって城内に入ることができなかったはずである。クロスの部下も、なんらなす術がなく虚しく撤退する他はなかったのである。しかし致命的な出来事の起きたその夜は、全ての人々が泥酔の極みに達していたので、これらの銅の門は全て開いたままで、しかもペルシャ兵の侵入に気が付かなかった。もし市民が川の水が急に減少したことに気付き、大事件が起きることを悟ったのなら、また彼らが密かに要害をさして忍び寄る武装兵の薄黒い姿のうごめきを認めたのなら、全市はたちまち上を下への大混乱を起こし、口々に不吉な事件が起きることを叫びまわったことであろう。しかし誰一人として川の水が減るのに気づいた者はなく、ペルシャ兵の侵入を見た者もなく、また誰一人銅門を閉ざしてこれを守らねばならない言った者もなく、ただ飲めや歌えよの痴態に全てを忘れていたのであった。実にこの夜の彼らの所業は、自国の自由をことごとく犠牲にしてしまった。彼らはバビロン王の臣下として饗宴に酔っていたが、醒めた時にはペルシャ王の奴隷となりはてていたのであった。


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