ダニエル書講解6

第2章 預言と四大帝国の滅亡



ネブカデネザル王の夢


 「ネブカデネザルの治世の第二年に、ネブカデネザルは夢を見、そのために心に思い悩んで眠ることができなかった。」ダニエル2:1

 ダニエルはネブカデネザルの治世の第一年に捕虜としてバビロンにつれてこられた。そして彼は三年の間教育を受けたのであるから、勿論その期間内にバビロンの知者の中に数えられるはずはなく、また公務に携わるはずもなかった。このネブカデネザルの第2年に本章に記録されている事件が起きたのである。
 ここにおいて、どうしてダニエル王の治世の第二年に、夢を解き明かすため召し出されたのであろうかという疑問がおきるが、これはネブカデネザルが彼の父ナボボラッサルと二年間共同統治をしていた事実によって説明できるのである。すなわちユダヤ人はネブカデネザルが父王と共同統治を始めた時から起算し、カルデヤ人の計算によれば王の治世の第二年、ユダヤ人の計算によれば第四年であった。要するにそれは、ダニエルがカルデヤ帝国の国務に参与する準備を完成した翌年、神が摂理の下に彼を急に不思議な手段で全国に知られるようにされたのであった。


知者の召集



 「そこで王は命じて王のためにその夢を解かせようと、博士、法術士、魔術士、カルデヤびとを召させたので、彼らはきて王の前に立った。」ダニエル2:2

 「博士」は英訳では“Magicians”となっている。すなわち読んで字のごとく、魔術を行う人のことで、すべての迷信的儀式や占者の儀式を行い、誕生の時期や星の位置などによって人の運勢や未来の事がらを占う者であった。次に法術士とは英訳では“Astrogers”となっているが、これは星を研究することによって将来の出来事を予言すると称する人々であった。この星占いの迷信は古代の東洋の諸国民には広く行われたものである。また魔術師は“Sorcerers”と英訳されている。これは死人と交信すると偽った人々であるが、聖書にはいつもこの意味において用いられているようである。近世の心霊術すなわち我が国における巫女、くちよせ、いたこの様に不思議な交霊術は、単に古代異教の魔術の復活に過ぎないのである。ここに記されたカルデヤ人は魔術士および占星術士と同様な哲学者の一派であって、彼らは神癒(しんゆ)や占星を研究していた人々であった。これらの職業はバビロンに多数あったがそれぞれの目的は同一であった。すなわちそれは秘密を解明し、将来の出来事を予言することであって、彼らの間の主な相違はその目的を達成するために選んだ方法にあった。であるから王は憂慮のあまり、秘密や将来の出来事を説明すべき職分にある彼らを全部召し寄せたのであった。



王の要求と知者の回答


 「 王は彼らにむかって、『わたしは夢を見たが、その夢を知ろうと心に思い悩んでいる』と言ったので、カルデヤびとらはアラム語で王に言った、『王よ、とこしえに生きながらえられますように。どうぞしもべらにその夢をお話しください。わたしたちはその解き明かしを申しあげましょう。』」ダニエル2:3,4

 この古代の魔術士や星占者がいかなる能力を持っていたとしても、彼らは確かに如才ない予言をするのに必要な基礎となるべき十分な材料をひき出す術に達していたらしい。であるからこの場合においても彼らの狡猾な本性に違わず王に向かってその夢をお話しくださいと要求したのである。すなわち十分な材料を得さえすれば、容易に一致して彼らの名声を失墜しない様な解釈に達し得たに違いないと考えた。この時彼らはスリア語で王に話しかけたが、これはその当時の教養あるカルデヤ人に用いられた言葉であった。ちなみに本章の五節から七章までの記録はみなスリア語である。